この記事で試すこと

  1. 01社内の決まりと、会社ですでに使えるAIツールを確かめる
  2. 024つの条件で、試す業務を1つに絞る
  3. 036項目の提案メモを1枚にまとめ、2週間の試行として上司に相談する
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提案が止まるのは、上司が「何を許可するのか」を判断できないとき

家ではChatGPTで文章を整え、Excelの関数もAIに聞いていて、職場の作業にも使えそうだと感じている人がいます。それでも上司にどう話せばよいか分からず、言い出せないままの人は多いはずです。勝手に使って問題になるのも怖く、かといって「AIを使いましょう」と言うだけでは話が進みそうにありません。

上司が返事に困るのは、AIそのものが分からないからとは限りません。「AIを使いたい」という相談は、どの作業に、どのツールで、何を入力して、誰が確かめるのかが決まっていないと、許可する範囲が定まらないからです。範囲が見えない相談には、慎重な上司ほど「様子を見よう」と答えます。

この記事は、自分でAIを使い始め、職場でも試したいと考えている会社員に向けて書きました。読み終えたときに、最初に試す業務を1つ選び、上司に見せる提案メモを1枚書き、聞かれそうな質問に答えを用意したうえで、切り出すかどうかを自分で決められる状態を目指します。

題材の会社とチーム、業務の一覧、提案メモ、会話、試行の記録は、すべてつくりてラボが作った架空の例です。実在の会社や人物、実際の導入事例とは関係ありません。

切り出す前に確かめる3つのこと

1つ目は、社内の決まりです。就業規則、情報セキュリティの規程、AIの利用ガイドラインのどこかに、生成AIや社外のクラウドサービスの扱いが書かれていないかを探します。禁止と書かれていれば、提案の中身は「業務で使う」から「決まりの見直しを相談する」に変わります。何も書かれていなければ、許可の相手は直属の上司か、情報システムの担当部署です。

2つ目は、会社ですでに使えるツールです。職場でMicrosoft 365を使っているなら、Copilot Chatが社内で使えるようになっていないかを、情報システムの担当に聞いてみます。2026年10月12日にMicrosoft Learnで確かめた公式ドキュメントでは、Copilot Chatのプロンプトと応答はエンタープライズ データ保護の対象で、基盤モデルのトレーニングに使われないと説明されていました。具体的な管理の内容は契約のプランによって異なる、という注記もあります。会社が用意したツールで試せるなら、新しい契約の相談を後回しにでき、上司が判断する事柄が1つ減ります。

3つ目は、相談する相手と順番です。いきなり部署の会議で発表するより、直属の上司に5分ほど時間をもらい、メモを見せながら話すほうが、相手は落ち着いて質問できます。情報システムの担当部署がある会社なら、上司から「担当部署に確認して」と返されることも見込んで、聞く内容をメモの末尾に書いておきます。

参考リンク

試す業務を選ぶ4つの条件

最初の提案で扱う業務は1つに絞ります。複数の業務をまとめて提案すると、そのうち1つでも心配な点があれば、全体が保留になりやすいからです。選ぶときは、次の4つの条件を順に当てはめます。

条件を4つとも満たす業務が見つからないときは、無理に提案せず、自分の作業の記録を続けて候補を探します。満たさない業務で始めると、上司から最初に出る質問にその場で答えられません。

試す業務を選ぶ4つの条件
条件確かめること満たさないと起きること
繰り返し発生する週に1回以上、同じ形の作業がある試行の2週間で回数が足りず、比べる材料が集まらない
個人情報や取引の秘密を入れずにできる顧客名・金額・社外秘の資料を入れなくても作業が成り立つ情報の扱いが最初の論点になり、試す前に止まる
人が最後に確かめてから使えるAIの出力がそのまま社外や顧客に出ていかない誤りが外に出たときの責任の所在が問われる
前と後で比べられるかかった時間や直しの回数を、自分で記録できる試行のあとで「よかったかどうか」を示せない

練習:架空の営業事務チームの業務6件から、1件を選ぶ

下は、架空の住宅設備会社で営業事務を担当するBさんが、自分のチームの作業を書き出した一覧です。チームは5人で、Bさんは自分の作業ではすでにAIを使い、その使い方を職場でも試したいと考えています。4つの条件に照らして、最初の提案に向く業務を1つ選んでみてください。

答え合わせは次の節にあります。条件のうちどれで外れるかまで考えると、自分の職場で候補を選ぶときにも同じ順番で絞れます。

練習例
【つくりてラボが作った架空の例:営業事務チームの作業一覧】
(会社・チーム・Bさんは架空です)

A 見積書の金額を、顧客ごとの値引き条件に合わせて計算する(毎日)
B 顧客からの問い合わせメールに、返信の下書きを作る(毎日。顧客名と注文内容が入る)
C 社内向けの「製品の取り扱い手順書」を、新しい書式に書き直す(今月だけで12本)
D 週1回の営業会議の議事録を、録音から起こして配る(毎週)
E 展示会の来場者アンケートの自由記述を、分類して集計する(年2回)
F 社内報に載せる「今月の新製品紹介」の文案を作る(毎月1本)

答え合わせ:Cが最初の提案に向く理由

当サイトの答えはCです。手順書の書き直しは今月だけで12本あり、2週間で比べる回数が足ります。中身は社内の手順で、顧客の情報も金額も入りません。書き直した文書は社内で使うものなので、配る前に担当者が確かめられます。1本あたりの作業時間を記録すれば、前と後の比較もできます。

Fも条件を満たしますが、月に1本では2週間の試行で比べる材料が集まりません。Cの試行がうまくいったあと、2件目として加える候補になります。

答え合わせ:Cが最初の提案に向く理由
業務判定理由
A 見積の計算外す顧客ごとの値引き条件という取引の情報を入れる。計算の誤りがそのまま顧客に出る
B 問い合わせの返信外す顧客名と注文内容が入る。返信は顧客に直接届く
C 手順書の書き直し選ぶ4つの条件をすべて満たす
D 議事録保留録音に社外秘の話や個人名が入る。会社が用意したツールで扱えるかを先に確かめる
E アンケートの集計保留年2回で、2週間の試行に回数が足りない。自由記述に個人が特定できる内容が入る場合もある
F 新製品紹介の文案2件目の候補条件は満たすが、月1本では比べる材料が集まらない

上司に見せる提案メモは、6項目を1枚に

提案メモに書くのは、対象の業務、AIに任せることと任せないこと、使うツールと入力しない情報、期間、記録すること、やめる条件の6項目です。最後の「やめる条件」を先に書いておくと、上司は失敗したときの止め方まで見たうえで判断できます。

下は、前の節で選んだCについて、Bさんが書いた想定の提案メモです。記録の欄にある時間は、Bさんが試行の前に自分の作業を測った架空の値として置いています。

具体例
【つくりてラボが作った架空の例:提案メモ】

件名:手順書の書き直しで、AIを2週間試させてください

1. 対象の業務
 社内の製品取り扱い手順書を、新しい書式に書き直す作業(今月12本、担当はBのみ)

2. AIに任せること/任せないこと
 任せる:旧書式の文章を、新しい書式の見出しと箇条書きに並べ替えた下書き
 任せない:手順の中身の判断、数値や型番の確認、配布前の最終確認(Bが行う)

3. 使うツールと、入力しない情報
 会社のMicrosoft 365で使えるCopilot Chatを使う(情報システム担当に利用可否を確認する)
 顧客名・取引先名・金額・社外秘の資料は入力しない

4. 期間
 10月19日〜10月30日の2週間。対象は12本のうち6本

5. 記録すること
 1本ごとに、作業時間・AIの下書きから直した箇所の数・見つけた誤り
 試行前の作業時間は、1本あたり約50分(Bが先週3本を測った値)

6. やめる条件
 型番や数値の誤りが下書きに2本続けて出たら、その時点で止めて報告する

2週間後の11月2日に、記録と続けるかどうかの案を報告します。

試行で使う頼み方と、うまくいかない下書きの直し方

提案が通ったら、試行の初日に頼み方を決めて、2週間同じ文で頼みます。日によって頼み方を変えると、作業時間が減った理由が頼み方の違いなのか、慣れなのかが分からなくなるからです。

下の依頼文は、手順書の書き直しのために当サイトが書いた例です。新しい書式の見出しを先に渡し、元の文にない内容を足さないこと、型番と数値は元の文のまま写すことを、それぞれ1行で指定しています。

具体例
【つくりてラボが作った架空の例:試行で使う依頼文】

次の手順書を、新しい書式に書き直した下書きを作ってください。
参照してよいのは、下に貼る手順書だけです。

・見出しは「目的」「必要なもの」「手順」「注意」の4つにしてください。
・「手順」は番号付きの箇条書きにし、1行に1つの動作だけを書いてください。
・元の手順書にない注意や手順を足さないでください。
・型番、数値、単位は、元の文の表記のまま写してください。
・元の文から判断できない箇所は、空欄にせず【要確認】と書いてください。

(ここに旧書式の手順書を貼ります)

下書きに出やすい問題と、頼み直し方

下の表は、手順書の書き直しで起こりやすい問題を、当サイトが想定して整理したものです。特定のAIサービスで実行した結果ではありません。どれも、下書きを読み流すだけでは見落としやすい種類です。

直させるときは、問題のある行と元の文の該当箇所を示し、ほかの行は変えないよう頼みます。全体を作り直させると、合っていた行まで言い回しが変わり、確かめ直す範囲が広がってしまいます。試行の記録の「直した箇所」には、こうした頼み直しの回数も数えておきます。

下書きに出やすい問題と、頼み直し方
下書きに出やすい問題見つけ方頼み直しの一文
元の文にない注意が足されている「注意」の各行を、元の文で探す注意の3行目は元の文にありません。削除し、ほかの行は変えないでください
型番や数値の表記が変わっている型番・数値・単位を元の文と1つずつ照らす手順2の型番は、元の文の表記のまま写してください
2つの動作が1行にまとめられている手順の各行に、動詞が2つ以上ないかを見る手順4を、動作ごとに2行に分けてください
順番が入れ替わっている元の文の順に番号を振り、下書きと並べる元の文では、電源を切ってから部品を外します。手順3と4を入れ替えてください

問題のある提案と、直し方

下の左側は、よく見かける形の提案を、当サイトが練習用に書いたものです。熱意は伝わりますが、上司が許可する範囲が書かれていません。右側に、どの項目で直すかを並べました。

とくに外したいのは、出典のない削減率と、他社がやっているという理由づけです。自分の職場で測っていない数字は、上司に根拠を聞かれた時点で答えに詰まります。試行の前に自分で測った時間だけを書き、効果は試行のあとに報告する形にすると、約束していない数字で評価されずに済みます。

問題のある提案と、直し方
問題のある書き方上司が困る点直した書き方
AIで業務を効率化しましょうどの業務か分からない手順書の書き直し(今月12本)で試させてください
作業時間を50%削減できます根拠がなく、達成できなければ提案者の評価が下がる試行前は1本あたり約50分。試行後に実測の値を報告します
他社も導入しています自社の業務と関係がない(書かない)
ChatGPTを使います個人のアカウントか会社のものか、何を入れるのかが分からない会社で使えるCopilot Chatを使い、顧客名・金額は入れません
みんなで使いましょう全員分の教育と決まりが要る話になるまず担当のBが1人で、2週間試します

切り出しの一言と、上司に聞かれやすい6つの質問

話し始めは短くします。「手順書の書き直しが今月12本あるので、AIで下書きを作る方法を2週間だけ試させてもらえないか相談したいです。メモを1枚作ってきました」と伝え、メモを渡してから説明に入ります。最初の一言に、業務・期間・メモがあることを入れておくと、上司は聞く前に話の大きさをつかめます。

そのあとは質問に答える時間です。下の表は、上司から出やすい質問と、答えの組み立て方を当サイトが整理したものです。答えに使う事実は、自分の会社の決まりと、使うツールの公式の説明から取ります。調べても分からなかったことは、分からないと答え、誰に確かめるかを添えます。

切り出しの一言と、上司に聞かれやすい6つの質問
聞かれやすい質問答えの組み立て方
社内の情報が外に漏れないか入力しない情報をメモの3で決めてあることを示す。会社が用意したツールなら、そのツールの公式の説明を添える
AIが間違えたらどうするか任せるのは下書きだけで、型番や数値は自分が確かめてから配ると答える。やめる条件も示す
誰が責任を持つのか配った手順書の責任は、これまでどおり担当者にあると答える
お金はかかるのか会社がすでに契約しているツールの範囲で試すなら、新しい契約は要らないと答える。費用の扱いが分からなければ、情報システム担当に確かめると答える
ほかの人も使うのかまずは自分1人で試し、結果を見てから相談すると答える
禁止されていないのか確かめた規程の名前と、書かれていた内容を答える。見つからなかった場合は、そう伝えて担当部署への確認を頼む

個人のアカウントで先に試すときの線引き

提案の前に、自分のアカウントで方法を試しておきたい人もいるはずです。その場合も、職場の情報は入れません。手順書なら、実物を写すかわりに架空の製品について自分で短い手順を書き、並べ替えの頼み方だけを確かめる、というやり方になります。会社の決まりで私物のサービスの業務利用が禁止されていれば、架空の題材であっても業務時間中の利用は避けます。

2026年10月12日にOpenAIの公式ヘルプを見ると、個人向けのChatGPTでは、設定の「データコントロール」にある「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにすると、新しい会話はモデルの学習に使われなくなると書かれていました。同じヘルプは、会話を学習に使うかどうかをデータコントロールで選べる、とも説明しているので、自分の設定がどちらになっているかは試す前に画面で確かめておきます。組織向けのプランは扱いが異なり、ChatGPT BusinessやEnterpriseなどのデータはデフォルトでは学習に使わない、というのがOpenAIの説明です。

個人情報保護委員会が2023年6月に公表した注意喚起では、事業者が個人データを含むプロンプトを入力する場合に、サービスの提供元がそのデータを機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう求めています。個人のアカウントに職場の情報を入れて試した結果を提案に使うと、提案の中身より先に、その使い方が問題になります。

参考リンク

2週間後の報告:うまくいかなかった記録も入れる

試行が終わったら、メモの5で決めた項目をそのまま表にして報告します。下の表は、Bさんの試行を想定した架空の記録。6本のうち1本で、下書きの型番の一部が入れ替わっていました。こうした誤りを報告から外すと、次に誰かが同じ方法を使ったとき、同じ誤りが見落とされるおそれがあります。

報告の最後には、「続ける」「範囲を広げる」「やめる」のどれを勧めるかと、その理由を書きます。この例なら、作業時間は減ったものの型番の確認は欠かせないと分かったので、確認の手順を決まりにしたうえで残りの6本に続ける、という案になります。

2週間後の報告:うまくいかなかった記録も入れる
手順書作業時間直した箇所見つけた誤り
1本目45分9か所なし
2本目35分6か所なし
3本目40分7か所型番の一部が入れ替わっていた
4本目30分4か所なし
5本目30分5か所なし
6本目25分3か所なし

確認リスト

  • 業務を1つに絞り、4つの条件を満たしているか
  • 社内の決まりを探し、見た規程の名前を控えたか
  • 会社ですでに使えるAIツールがないか確かめたか
  • 提案メモに、任せないことと入力しない情報を書いたか
  • 削減率は書かず、試行前に自分で測った時間だけを書いたか
  • やめる条件と、報告する日を決めたか
  • 報告に、うまくいかなかった記録も入れたか

断られたとき、提案しないほうがよいとき

断られたら、まず理由を一つだけ聞いてください。「情報の扱いが心配」なのか、「今は時期が悪い」なのか、「会社として決まりができるまで待つ」なのかで、次の手が変わります。情報の扱いが理由なら、入力する情報をさらに絞った案で出し直せます。会社の決まりを待つ場合は、その間も自分の作業時間の記録だけは続けておきましょう。決まりができたとき、その記録を添えてすぐに出し直せます。

断られたあとに、個人のアカウントで職場の作業を続けるのはやめてください。前の節で見たとおり、個人のアカウントは設定しだいで入力が学習に使われることがあり、会社の決まりにも反するおそれがあります。

職場の規程で生成AIの業務利用がはっきり禁止されていて、見直しの予定もない場合や、試せる業務が顧客の情報を扱うものしかない場合は、今は提案しないという判断もあります。その場合に残る道は、職場の外でAIの使い方を身につけ、決まりが変わったときにすぐ動けるよう準備しておくことです。

独学で足りる人、スクールで学ぶと進めやすい人

この記事の手順で業務を1つ選べ、提案メモを書けた人は、ここから先も独学で進められます。試行の記録をワークシートに残し、2件目の業務を選ぶときにも同じ4つの条件を使ってください。提案に必要なのは、AIの高度な知識よりも、自分の業務をよく知っていることです。

スクールを検討してよいのは、試したい業務でAIの下書きの質が安定せず、頼み方を誰かに見てもらいたいときです。職場で使い方を人に教える立場になりそうな人や、会社の決まりづくりに関わることになった人も、講師に質問できる環境があると、自分の判断が合っているかを確かめながら進められます。

スクールの説明会や無料相談では、「自分の業務に近い題材で演習があるか」「職場での使い方について質問できるか」「情報の扱いや社内の決まりについて扱う回があるか」を聞いてみてください。講座によって扱う範囲は違い、職場への提案のしかたまで含むとは限りません。

参考リンク

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