この記事で試すこと

  1. 011週間にAIへ頼んだ作業を書き出し、2つの問いで4つに分ける
  2. 02身につけたい作業は、下書きを先に作るか、答えを出させずにヒントを頼む
  3. 032週間に1回、AIを使わずに同じ種類の課題を解いて記録する
自分の条件を書き出す

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AIに任せた作業は、練習の機会ごと手元から消える

メールの文面も、議事録の要約も、Excelの関数も、AIに頼めばすぐに形になります。仕事が速く片づくようになった一方で、「AIがないと何も書けなくなっているのでは」と不安になる人もいます。上司にAIなしで説明を求められ、言葉に詰まったことがきっかけになる場合もあるはずです。

不安の出どころは、はっきりしています。以前は自分で手を動かしていた作業をAIが代わると、その作業で積み重なっていた練習もなくなるからです。文面を考える、要点を選ぶ、数式の組み立てを試す、といった練習がそれにあたります。提出した成果物が同じでも、自分の中に残るものは違ってきます。

この記事は、AIを仕事や学習で使い始め、自分の力がついていないのではと心配している人に向けて書きました。読み終えたときに、自分の作業のどれをAIに任せ、どれを先に自分でやるかを決め、力が残っているかを自分で確かめる方法を選べる状態を目指します。

題材の会社員と作業リスト、依頼文、AIの出力例は、すべてつくりてラボが作った架空の例です。出力例は起こりやすい形を人が書いたもので、特定のAIサービスで実行した結果ではありません。

研究で分かっていることと、まだ言えないこと

AIの利用と考える力の関係は、研究が出始めた段階にあります。Microsoft Researchが2025年に発表した調査では、生成AIを仕事で使う知的労働者319人に、実際に使った場面を936件挙げてもらい、そのとき批判的に考えたかどうかを尋ねました。結果として、生成AIへの信頼が高いほど批判的に考える場面が少なく、その作業についての自分への自信が高いほど多かったと報告されています。

同じ論文は、生成AIを使うと批判的思考の中身が、情報の検証、回答の取りまとめ、作業全体の管理へ移るとも述べています。一から自分で考える部分が減り、AIの出力を確かめて組み込む部分が増える、という変化です。

ただし、この調査は本人の自己申告に基づくもので、論文の題名にも「Self-Reported(自己申告)」と入っています。能力が落ちることを試験や測定で確かめた研究とは、性格が異なります。そこでこの記事では、「AIを信じきっている作業ほど、自分で考える場面が減りやすい」という点だけを前提にしました。自分の力が落ちているかどうかは、後半で紹介する記録で確かめます。

参考リンク

練習の材料:架空の会社員が1週間でAIに頼んだ8件

下は、入社2年目で営業事務を担当する架空の会社員Aさんが、1週間にAIへ頼んだ作業の一覧です。頼み方はどれも「全部書いて」「全部やって」で、出てきたものを少し直して使っていました。

自分の1週間に置き換えて読めるよう、事務・営業・企画の職場でよく出る作業を選んでいます。次の節の2つの問いで、8件を4つに分けてみてください。

練習例
【つくりてラボが作った架空の例:入社2年目の営業事務・Aさんが1週間にAIへ頼んだ作業】

1 展示会で名刺交換した相手へのお礼メールを、全文書いてもらった
2 週1回の定例会議のメモから、議事録を作ってもらった
3 受注一覧から担当者別の件数を出すExcelの関数を書いてもらった
4 来月から任される新商品の提案資料について、構成を丸ごと考えてもらった
5 海外の取引先から届いた英文メールを、日本語に訳してもらった
6 社内向けのお知らせ文の誤字と表記ゆれを直してもらった
7 上司に出す「受注処理の手順を変えたい」という提案の、理由の部分を書いてもらった
8 研修で出た「粗利」「リードタイム」の意味を聞き、説明をそのままメモに写した

2つの問いで、作業を4つに分ける

分けるときの問いは2つです。1つ目は、この作業の力を半年後に自分で持っていたいかどうかで、今の担当業務の中心にある作業、これから任される作業、人に評価される作業なら「はい」と答えます。2つ目は、AIの出力が正しいかをAIを使わずに判定できるかどうかです。元の資料と照らせる場合や、自分の知識で誤りに気づける場合は「はい」とします。

2つの答えを組み合わせると、AIの使い方は下の表の4通りに決まります。AIに全部任せたときに練習の機会が消えて困るのは、1つ目が「はい」の作業のほうです。1つ目が「いいえ」の作業は任せてしまい、浮いた時間を「はい」の作業に回します。

迷いやすいのは2つ目の問いです。「なんとなく合っていそう」と感じる程度なら、「いいえ」に入れてください。判定できるつもりで任せた作業が、あとで誤りの見逃しとして返ってくることがあります。

2つの問いで、作業を4つに分ける
身につけたいかAIなしで判定できるか使い方AIに頼むこと
はいはい先に自分で作り、AIと比べる自分の下書きへの指摘、別の書き方との比較
はいいいえAIに教わりながら自分で解くヒント、練習問題、自分の答えの採点
いいえはい任せて、確かめてから使う作業そのもの
いいえいいえ確かめ方を決めてから任せる作業そのもの(確認は元の資料か、詳しい人に頼る)

答え合わせ:Aさんの8件の分け方

つくりてラボが、Aさんの担当業務と経験を前提に分けた例です。担当や経験が違えば答えも変わるので、自分ならどこに入るかを考えながら読んでください。

判定が分かれやすいのは4と7です。AIの出力はどちらもそれらしく見えますが、提案資料の構成も提案の理由も、Aさんがこれから自分で求められる力にあたります。AIに書かせた理由を上司に説明しようとして、問い返されると答えられない。不安が表に出やすいのは、こうした作業です。

答え合わせ:Aさんの8件の分け方
番号作業分け方理由
1お礼メール先に自分で作り、AIと比べる社外への文面はこれからも自分で書く。相手と話した内容を知っているのは自分なので、誤りは判定できる
2議事録先に自分で作り、AIと比べる要点を選ぶ力は、会議を進める役になったときに要る。自分のメモと照らして判定できる
3Excelの関数AIに教わりながら自分で解く集計は毎週ある。関数が正しいかは、まだ自分で判定できない
4提案資料の構成AIに教わりながら自分で解く来月から任される。よい構成かどうかを判定する基準を、まだ持っていない
5英文メールの翻訳確かめ方を決めてから任せる英語力を伸ばす予定は今はない。訳全体の正誤は判定できないので、日付・数量・依頼内容は原文と照らすか、英語のできる同僚に確認する
6誤字と表記ゆれ任せて、確かめてから使う身につける対象ではない。直った箇所は見比べれば判定できる
7提案の理由先に自分で作り、AIと比べる自分の提案なので、理由は自分の言葉で言える必要がある。現場の事情を知っているので判定もできる
8用語の意味AIに教わりながら自分で解く業務で毎日使う言葉。説明の正誤は今は判定できず、写しただけでは覚えたかも分からない

先に自分で作る作業:下書きを見せて、指摘だけを頼む

「先に自分で作り、AIと比べる」に入った作業では、順番を入れ替えます。最初に自分で下書きを作り、AIに見せるのはそのあとです。下書きにかける時間を先に決めておくと、完璧に仕上げようとして手が止まることを防げます。

AIへの頼み方で気をつけたいのは、書き直させないことです。全文を書き直させると、自分の下書きのどこが弱かったのかが分からないまま、AIの文章に置き換わってしまいます。下は、Aさんがお礼メールの下書きを見せるときのために、当サイトが書いた依頼文です。

指摘を受けたら、直すのは自分です。直し終えてから、AIが最初から書いた場合の文面と比べたくなったら、そこで初めて頼みます。比べて「自分では思いつかなかった書き方」が見つかれば、ワークシートに書き写しておくと、次の下書きで使えます。

具体例
次のメールは、展示会で名刺交換した相手へのお礼として、私が書いた下書きです。

・書き直した全文は出さないでください。
・直したほうがよい箇所を3つまで、影響の大きい順に挙げてください。
・それぞれ、私の下書きの文を引用し、どこがなぜ問題かを書いてください。
・直し方は方向だけを示し、私が自分で書き直せるようにしてください。
・よく書けている箇所があれば、1つだけ理由とともに挙げてください。

(ここに下書きを貼る)

うまくいかない出力例:指摘を頼んだのに、全文が返ってくる

前の節の依頼文を送ったときに起こりうる、問題のある返答の例です。どこがまずいかを考えてから、下の説明を読んでください。

問題は2つあります。1つは、「全文は出さない」という条件を無視して、書き直した全文を返していることです。もう1つは、「よく書けています」という評価に、どこが・なぜの説明がないことです。これでは下書きのどこを直せばよいかが分からず、結局AIの文面をそのまま使うことになります。

頼み直すときは、前の依頼を繰り返すより、条件を外した点を名指しします。「全文が出ています。全文は不要です。直す箇所を、私の下書きの文を引用して3つまで挙げてください」と書けば、AIが何を外したのかがはっきりします。それでも全文が返ってくる場合は、下書きを送る前に「これから送る文章は書き直さず、指摘だけをしてください。分かったら『了解』とだけ返してください」と1往復はさむ方法もあります。

具体例
【つくりてラボが作った架空の例:問題のある出力】
(AIで実行した結果ではありません。起こりやすい形を、練習用に人が書いたものです)

以下のように修正すると、より伝わりやすくなります。

件名:展示会ご来場のお礼
〇〇株式会社 〇〇様
先日は弊社ブースにお立ち寄りいただき、誠にありがとうございました。……(以下、書き直した全文が続く)

全体的にとても丁寧で、よく書けています。

教わりながら解く作業:答えを出させず、問いとヒントを頼む

「AIに教わりながら自分で解く」に入ったのは、今の自分ではAIの答えの正誤を判定できない作業でした。ここで答えを書かせても、写した答えが合っているか、覚えたかどうかは確かめようがありません。だから、AIに頼むのは答えにたどり着くまでの問いとヒントに絞ります。

ChatGPTには、この使い方のための「学習モード」があります。OpenAIのヘルプによれば、学習モードはすぐに答えを示す代わりに質問で考え方を導き、途中で理解度を確かめる機能です。ChatGPTの各プランでWeb、iOS、Androidから使え、Webでは入力欄に「@study」と入力するか、「+」から「学習」を選びます。一時チャット、GPT、プロジェクトでは使えません。

GoogleのGeminiには「ガイド付き学習」があります。公式ヘルプによると、パソコンではgemini.google.comの入力欄でファイルを追加のボタンを押し、「その他のツール」から「ガイド付き学習」を選びます。使うにはログインが必要で、モバイルアプリへは段階的に提供されているとのことです。どちらの機能も使えない環境では、下の依頼文のように「答えを出さない」ことを条件に書けば、近い使い方ができます。

学習モードにも限界はあります。OpenAIは公開時の発表で、会話によっては一貫性のない動作や間違いが生じる場合があると書いています。AIのヒントや採点も、最後は教科書や公式ヘルプ、社内の資料と照らしてください。

具体例
受注一覧から担当者別の件数を出すExcelの関数を、自分で書けるようになりたいです。

・SUM関数は使えますが、条件付きで集計する関数は使ったことがありません。
・答えの数式は、私が求めるまで出さないでください。
・まず、どの関数を調べればよいかのヒントを1つだけ出してください。
・私が数式を書いたら、正しいかどうかと、間違っていればどの部分かだけを教えてください。
・最後に、同じ関数を使う練習問題を1問出してください。

参考リンク

力が残っているかは、2週間ごとのAIなしの小テストで確かめる

分け方と頼み方を変えても、力が伸びているかどうかは、使っている最中には見えにくいものです。そこで、「先に自分で」と「教わりながら」に入れた作業から1つずつ選び、2週間に1回、AIを使わずに同じ種類の課題を解きます。Aさんなら、架空の会議メモから議事録を作る課題と、新しい受注一覧で担当者別の件数を出す課題の2つです。

記録する項目は3つで足ります。かかった時間、手が止まった箇所、終わってからAIに見せて指摘された箇所です。回を重ねるごとに、手が止まる箇所と指摘の数が減っていれば、その作業の力は自分に残っています。減らないときは、その作業を「教わりながら解く」に戻し、つまずいた箇所を練習問題にしてもらいましょう。

小テストの課題そのものは、AIに作らせてかまいません。OpenAIのヘルプも、学習モードで小テストや練習問題を作れると案内しています。ただし、解いている間はAIを閉じます。調べ物が必要な課題なら、教科書や公式ヘルプを見るのはよしとして、AIに聞くことだけを止めてください。

用語のように覚える作業では、AIに説明させたあと、何も見ずに自分の言葉で書き出し、それをAIに採点させる方法が合っています。研修で聞いた言葉を翌週に何も見ずに説明できるかを試すだけでも、写したメモで覚えた気になっていたかどうかが分かります。

全部を自分でやる必要はない:任せる作業と、この方法の限界

力がつかない不安が強いと、AIを使うこと自体を避けたくなるかもしれません。けれど、誤字のチェックのように身につける対象でない作業まで手で続ければ、そのぶん身につけたい作業に回せる時間が減ります。表で「任せる」に入った作業は、確かめ方を決めたうえで任せてかまいません。

この記事の方法にも限界があります。2つの問いの答えは担当業務や立場で変わるため、異動や新しい仕事を任されたときには分け直しが要ります。小テストで分かるのは同じ種類の課題を自力で解けるようになったかどうかで、仕事の判断力全体を測れるわけではありません。

社内の情報をAIに入れてよいかは、この方法とは別の問題です。職場の決まりを先に確かめ、入れてよい情報の線引きは下の記事で練習してください。

参考リンク

独学で足りる人、人に見てもらったほうが進む人

自分の作業を2つの問いで分けられ、小テストを2〜3回続けて、手が止まる箇所が減ったと確かめられた人は、独学で進められます。必要なのは、手元のAIとこの記事のワークシートだけです。

人に見てもらったほうが進むのは、「AIなしで判定できるか」に「いいえ」が多く、判定の基準そのものをまだ持っていない人です。AIの採点が正しいのかも分からない段階では、AIに教わるだけでは確かめる手段が足りません。自分の下書きや解答を人が添削してくれる環境があれば、どこが弱いのかを外から指摘してもらえます。

スクールの無料相談や説明会では、「AIを使わずに作った課題を添削してもらえるか」「AIの出力を自分で判定する練習があるか」「質問できる期間と回数」を聞いてみてください。講座の時間のうち、ツールの操作の説明と、出力を確かめて直す練習にそれぞれどれだけ使うかも聞いておくと、講座どうしを比べやすくなります。

参考リンク

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